『阪神近代文学研究』27号(2026年5月刊行予定)投稿募集

阪神近代文学研究』27号(2026年5月刊行予定)の論文投稿を募集します。

  ☞『阪神近代文学研究』投稿規程(2024年7月改訂) - 阪神近代文学会

  締切は 2026年1月31日(消印有効)です。

 

【送付先】〒657-8501 神戸市灘区六甲台町1-1神戸大学文学部梶尾文武研究室内

           阪神近代文学会事務局

   

 

*『阪神近代文学研究』では、14号(2013年刊行)以降の掲載論文をJ−STAGEに登載することを予定しています。登載をお認めいただけない場合は、下記までご連絡ください。

  krweiwei[at]tiger.kobe-u.ac.jp(梶尾文武研究室内本誌事務局)

 

第70回 阪神近代文学会2025年度冬季大会 プログラム

 
【日時】2025年12月6日(土)13時30分~
【会場】相愛大学 本町学舎 C601教室
  ☞ キャンパスマップはこちら 
開場 13:00~
開会の辞
研究発表(13:40〜)

・資料報告 日本人捕虜による雑誌「尖兵」/ 金岡 直子(大阪産業大学滋賀大学摂南大学天理大学常葉大学奈良大学非常勤講師

北原白秋「文庫調」言説の特質と機能:同時代文語詩と比較しながら/中林 晃成(岡山大学大学院社会文化科学研究科博士課程前期課程)

安部公房箱男』論:箱の物語と実存を巡って/長澤 拓哉(神戸大学大学院人文学研究科研究員)

閉会の辞
懇親会 (18:00ごろ~)
▼参加にあたっては、事前予約等は不要です(どなたでもご自由にご参加いただけます)。
▼懇親会につきましては、会員の方に発送する案内ハガキまたはメールにてご確認ください。
▼当日は入会申込書をご用意いたします。会員外の方は、ぜひこの機会に入会をご検討ください。

第70回 阪神近代文学会2025年度冬季大会 発表要旨

資料報告 日本人捕虜による雑誌「尖兵」
 大阪産業大学滋賀大学摂南大学天理大学常葉大学奈良大学非常勤講師  金岡 直子

 雑誌「尖兵」(1945年1月~9月)は、重慶にあった国民党捕虜施設「自由村」にて発足した日本民主革命同志會(代表:大串勝利)による雑誌である。これまでに中国国家図書館所蔵の「尖兵」2号~9号(合冊)と、日本国内にて創刊号~3号、計9冊分の存在を確認したが、日本においては公的に保存されてはおらず、戦後80年間、眠っていた史料であるといえる。

 「尖兵」の存在については、わずかに上海「大公報」記事(1945年4月9日)と、その記事を引いた菊池一隆『日本人反戦兵士と日中戦争重慶国民政府地域の捕虜収容所と関連させて』(2003)による言及を認めるものの、上述のようにその存在が認められてこなかったために、内容や背景を探る動きは管見の限りないのが現状である。

 本発表では、革命同志への檄文のほか、詩・舞台劇・小説といった文芸記事、捕虜になるまでの経歴を生かした、部隊や軍需工場の内部情報などの多彩な記事を紹介し、捕虜の自主性を広宣した「対敵宣伝」の一環として編まれた雑誌の存在意義の検討を行う。また、その内容から鹿地亘や青山和夫との関係、および「革命右派」組織として知られている日本民主革命同志會の実態を探りたい。なお、日本民主革命同志會の一部メンバーは、上海留用時代の堀田善衞の日記『堀田善衞 上海日記-滬上天下一九四五』(2008)に登場している。堀田との交流から、堀田の国民党時代の動きを探ることが出来る資料になりうると考えられる。

 加えて、この雑誌には佐藤春夫名義の随筆「登山」が掲載されている。この文章が詩人・佐藤春夫本人のものであるかという検討も行い、その真偽を確かめたい。

 以上のように雑誌「尖兵」を各方面から検討し、新資料としての価値を評価する。戦後80年において失われた歴史のありかを問いかけながら、捕虜たちの記録を追ってみたい。

 

北原白秋「文庫調」言説の特質と機能:同時代文語詩と比較しながら

 岡山大学大学院社会文化科学研究科博士課程前期課程  中林 晃成

 投書雑誌『少年園』、『少年文庫』を前身とし、多くの文学青年を育んだ文芸雑誌『文庫』(1895・8~1910・8)。北原白秋は『明治大正詩史概観』(『現代日本文学全集』第37篇、改造社、1929・4)「文庫調について」の項において「総じて七五の主調である。その調律は幾分固く整斉してゐて、節と節との連関が自然の流露といふよりは何かのおもひつきで転換する技巧的傾向があり、漢詩の絶句のやうでもある。内容の香気はやや俳趣を溶かした田園味が多く、時には感傷に稚く、誤れば古臭で常凡となる。近代の熱情と感覚とからは疎く、ハイカラではない」と述べている。

 「文庫調」については『文庫』の代表的な作家である河井酔茗を含め多くの詩人・近代詩研究者が『文庫』の詩における特徴として言及するものの、同時代の文語詩と比較して性質を明らかにした先行研究は少ない。そのため、この比較を通じて「文庫調」言説を検証することで、多くの近代詩人を輩出した『文庫』の特質を確認し近代詩史に新たな視座を与えられるのではないだろうか。また私は文庫派の代表的な詩人であり度々高踏的と評される伊良子清白の詩風について調べることを最終的な研究目標としており、そのためには清白の主たる投稿誌である『文庫』の作風を確かめることで同時代の詩人や『文庫』の詩人にはない清白の詩の特徴を確かめられるのではないかと考える。

 本発表では、まず白秋の「文庫調」言説を音韻・語彙・内容の3点から確認しつつ日夏耿之介・河井酔茗などの他の「文庫調」言説と比較し、『文庫』の代表的な詩人の詩と『文庫』に属さない同時代の文語詩を照らし合わせて「文庫調」の特質を明らかにする。次に「文庫調」言説がいつ始まり広まったのかについて、また他の詩派や詩壇において「文庫調」言説がどのような文脈で使用され機能していたのかを確認し、「文庫調」言説の特質と機能について考察したい。


安部公房箱男』論:箱の物語と実存を巡って

 神戸大学大学院人文学研究科研究員  長澤 拓哉

 安部公房はその創作活動において、小説のみならず、テレビドラマ、ラジオドラマ、映画など多様な媒体で表現を展開した。なかでも戯曲・演劇は彼が特に力を注いだ分野であり、一九七三年には自ら主宰する「安部公房スタジオ」を設立している。同年に刊行された小説『箱男』(新潮社、1973)は、こうした複合的な芸術実践のなかで生まれた作品であり、「箱男」たちによる記述の主体をめぐる闘争を通して、「書くこと」および「語ること」の根源的意味を問う試みとして位置づけられる。

 従来の研究では、平岡篤頼が指摘する〈記述についての記述〉というメタ構造の導入、渡辺広士による「書く主体・場所・対象」の三位一体的関係の分析など、本作を「書くこと」を主題化したメタフィクションとして読む立場が主流を占めてきた。また、真銅正宏やマーガレット・キーは箱男の匿名性と複数性を「読者」や「作者」の寓意として論じ、工藤智哉も作家の存在の前景化に言及している。一方で中野和典は、箱男=小説家とする隠喩的読解を批判しつつも、「書く行為自体を小説化する」という点に本作の特質を認めている。

 他方、若林真や山川久三、松原新一らは学生運動や都市疎外の問題を背景とした同時代的読解を試みたが、日野啓三は安易な象徴的解釈を退け、安部の小説観そのものへの注目を促している。

 以上のように、従来の研究はメタフィクション性や構造分析に傾き、「物語性の欠如」を強調してきた。しかし安部は『箱男』発表前年の講演「小説を生む発想――『箱男』について」(1972)で、主題やプロットを先に置く理解を批判し、「芸術の特別の性質」を読まれる過程で生成する主題と物語に見出している。本発表ではこの視点に立ち、「箱」という装置がいかにして「書くこと」を媒介し、物語を生成させていくのかを考察する。『箱男』を小説という媒体の在り方を安部が再定位した作品として捉え直し、そこにおける「語ること」の創造的契機を明らかにしたい。

 

第70回 阪神近代文学会2025年度冬季大会 発表者募集

阪神近代文学会では、2026年冬季大会(第70回大会)を 12月6日(土)相愛大学本町学舎(相愛高等学校・中学校)にて開催する予定です。

つきましては、大会での発表者を募集いたします。奮ってご応募ください。 

本学会は研究者育成を目的のひとつにしており、発表時間 40分・質疑応答時間20分と、余裕を持って設定しております。

発表希望の方は、「発表題目」と「発表要旨」(800字程度。発表をお願いする場合はホームページ等にも内容を掲載します)を明記の上、郵便もしくはメールで事務局へお申し込みください。 

 

締め切りは、11月7日(金)必着とします。

 

〒657-8501 兵庫県神戸市灘区六甲台町1-1

 神戸大学文学部 梶尾文武研究室内

 阪神近代文学会事務局

 E-mail:krweiwei[AT]tiger.kobe-u.ac.jp

 Tel:078-803-5537(梶尾研究室)

『阪神近代文学研究』26号目次(2025年5月刊行)

蒲原有明「漁人名称考」論:「もどき」としての詩/川上優芽 1‐16

内田百閒「旅順入城式」論:「記録」から逸脱する「私」の語り/松原大介 17-30

堀田善衛「断層」論:一九五二年の日中関係接触の場/山戸麻紗子 31ー43

井上靖「考える人」論:「人間」を書くということ/毛鋼 44‐57

『明暗』執筆と、「漢詩」作詩(前篇)/鳥井正晴 58‐65

書評 木田隆文編集・解題『日本未来派、そして〈戦後詩〉の胎動―「古川武雄宛池田克己書簡」翻刻・注解/詩誌『花』復刻版』/金岡直子 66‐67

紹介 赤井浩太・松田樹編『批評の歩き方』/竹永知弘 68‐69

紹介 仁平正人・原善編『〈転生〉する川端康成II―アダプテーションの諸相』/辻秀平 70ー71

紹介 五十嵐伸治・伊狩弘・千葉正昭編『田山花袋事物事典』/出木良輔 72ー73

第69回 阪神近代文学会2025年度夏季大会 プログラム

【日時】2025年7月26日(土)13:30~
【会場】武庫川女子大学 文学2号館2階L2-23教室
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開場 13:00~
開会の辞
研究発表(13:40〜14:40)
室生犀星「かげろふの日記遺文」論:「女ひと」とパトリオティズム / 井上 峻佑(神戸大学大学院博士課程前期課程)
トークセッション(15:00〜17:30)
〈政治と文学〉再考:八〇年目の戦後文学 (ゲスト:井口時男氏・浜崎洋介氏)
  福田恆存と私:政治と文学論争を通じて / 浜崎洋介京都大学
  三島由紀夫ファシズム:昭和三〇年前後 / 梶尾文武(神戸大学
  文芸批評と政治(体験的に) / 井口時男(文芸批評家)
総会(17:40〜18:00)
閉会の辞
懇親会 (18:30ごろ~)
▼参加にあたっては、事前予約等は不要です(どなたでもご自由にご参加いただけます)。
▼懇親会につきましては、会員の方に発送する案内ハガキにてご確認ください。
▼当日は入会申込書をご用意いたします。会員外の方は、ぜひこの機会に入会をご検討ください。

第69回 阪神近代文学会2025年度夏季大会 発表要旨

室生犀星「かげろふの日記遺文」論―「女ひと」とパトリオティズム

 神戸大学大学院人文学研究科博士課程前期課程 井上峻佑

 1959年に講談社より刊行された『かげろふの日記遺文』(初出『婦人之友』1958.7-1959.6、以下「日記遺文」)は、室生犀星の後期作品を代表する一編である。「蜻蛉日記」を典拠とする本作は、原典ではわずかにしか書かれない町の小路の女・時姫との恋愛闘争に主眼を置く。福永武彦が「永遠に女性的なもの」を読み取ったように、典拠に囚われない造形が評価されてきた作品である。

 犀星は戦時中、「山吹」や「萩の帖」をはじめとして、王朝文学の翻案に取り組んでいた。作者が「卒業論文」と称したように、本作は改めて王朝文学に再接近し、かつての試みを長編として総決算するという性格を持つ。

 本作の刊行当時には、奥野健男吉本隆明といった所謂「戦中派」が、みずからの世代意識に照らして文学者の戦争責任の問題を問うていたが、彼らの批評は犀星を専ら例外扱いしている。しかし伊藤信吉が「戦争詩の〈代表的〉ともいうべき詩人」として捉え直したのを機に、近年では戦争責任という観点から犀星の戦時下の文学を批判的に検討する作業が進みつつある。当時の問題関心に再び接近した「日記遺文」もまた、太平洋戦争下のイデオロギーという観点から再考されるべき作品である。

 犀星は「日記遺文」と近い時期に、恋愛主義の立場からヒトラーの生涯を語った随筆「女ひと」(1955年)、日本らしき島の女性を巡るアメリカらしき国との戦争を描く小説「考へる鬼」(1958年)といった作品を執筆している。これらに共通するのは、国家主義イデオロギーを女人崇拝の問題へと矮小化する姿勢である。その姿勢は「日記遺文」の「女が自分の愛のために戦うのは、国と国の平定をとるために起る戦いにも似ている」という一文にも認められるだろう。本発表では「日記遺文」のテクスト分析を通して、晩年の犀星作品に顕著な女人崇拝の表現が、太平洋戦争下のパトリオティズムといかに結びついているかを明らかにしたい。