庄野潤三の小説と神戸

プール学院大学   西尾宣明
庄野潤三は、敗戦後の一九四六年五月、神戸在住島尾敏雄を中心とする同人誌「光燿」に参加し、文学的活動をはじめた。そののち、「VIKING」にも参加し、一九五〇年には、富士正晴に、島尾のあとの「VIKING」の主要作家と記させている。帝塚山学院創立者貞一の三男として大阪の住吉で生まれ、中学時代の恩師伊東靜雄に強い影響を受けたことや、九州帝国大学時代の友人・島尾の紹介で小説家として活躍をしはじめたことも、よく知られている。まず、庄野と島尾との関係や履歴を簡単に振り返りたい。
 そして、庄野小説の特質と文学史的位置について、庄野の主要な小説(「プールサイド小景」一九五四年二月、「静物」一九六〇年一〇月、「せきれい」一九九七年一月〜一二月)の表現から確認したい。安岡章太郎吉行淳之介遠藤周作などとともに、「第三の新人」として庄野は位置づけられているが、庄野小説がもっとも「第三の新人」らしい様式を有していることを考察してみたい。
 そのことと関連づけて、庄野小説で神戸を舞台とするふたつの小説から、神戸についての言説をいくつか例示したい。ふたつの小説とは、「流木」(一九五三年一二月)、「早春」(一九八〇年六月〜一九八一年九月)である。「流木」は、青年の夢と挫折を描いた恋愛小説であり、主人公の沼は加古川に、恋人の涼子は六甲に居住している。二人は大学生で、関西学院大と思われる大学に通学している。「早春」は、都市と人との関係が穏やかな筆致で描かれる〈聞き語り小説〉で、老夫婦が兵庫のさまざまな場所を訪れる作品である。庄野の小説では、「流木」は初期作品、「早春」は円熟期の作品である。これらの小説から、庄野小説の変遷と特質を考えてみたい。