津村節子『さい果て』論

津村節子『さい果て』論
   関西大学大学院博士修士課程  岩田陽子

 津村節子の長編小説『さい果て』は昭和四十七年三月二十五日に、筑摩書房から発行された。『さい果て』は津村節子が三十七歳で芥川賞を受賞し、同人作家時代から脱却した重要な時期に執筆された作品を中心に構成されている。『さい果て』の全五章はそれぞれが独立した短篇として発表されている。そのうち、三章「さい果て」は新潮同人雑誌賞を、四章「玩具」は昭和四十年上半期の第五十三回芥川賞を受賞した作品であり、津村節子の文壇登場作となったものである。『さい果て』は津村節子を考える上では注目すべき作品であろう。
 津村節子は「あとがき」で「短編の連作小説」、「初めから長編の構想を抱き」といっている。津村節子は『さい果て』を短篇集として考えないで、あくまでも長篇小説として、「一貫したもの」としたかったが、それと「同時に、独立した短篇の形を損なうことを避ける努力もした」という。そこに長篇小説『さい果て』の特色があるといえよう。
 さて、『さい果て』を長編として捉えると、一章から三章が一人称小説、四章から五章が三人称小説という特殊な形態をなしていることになる。一章から三章と四章・五章には明白な断層がある。津村節子は本当に各章を短篇小説として発表した時、「初めから長編の構想」を抱いていたのだろうか。
 津村節子が長い同人作家時代から脱却し、世に出るきっかけを掴んだ「さい果て」、「玩具」という代表作を組み立て、長編にするということは、「あとがき」でいう「連作長編でありながら、独立した短編の形を損なうことを避ける努力」が必要になる。本発表では、そのような状況の中で構想された『さい果て』について考察する。